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あっ! あかん。今、この人ら、口と口つけよったで。
なんやろなぁ。見とると、モヤモヤするんやけど。
「威さん! もう帰らんと、三十分すぎたえ」
ムカムカするさかい、つい、大きな声になってしまう。
すると、威さんの胸のなかの人形劇が消えて、なんもない穴になりました。
「あっ、そうだな。もう行くよ。今日も、ありがとうございました。じゃあ、また」
「うちも、いっしょにお風呂行く」
うちは、たらいと手ぬぐい持って、威さんにひっついていきます。
夜道はまっくら。
さりげなく、威さんによりそったりして。うふふ。
「なぁ、威さん」
「うん?」
その胸のなかの人、誰なん?
そう聞きたいのに、どうしても聞けまへん。
うち、気づいたんやけど。
胸のなかに見えるんは、威さんの思い出なんやろ?
威さんが、その人のこと考えとるときだけ見えるんやね?
「威さんは、家族、いはらへんのん?」
かわりにたずねると、威さんがだまりこみました。
ふりあおぐと、星空をバックに、威さんのよこ顔はさみしそう。
「……家族は、みんな死んだよ」
「……すんまへん」
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