むむむ、胸に穴が…

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むむむ、胸に穴が…

うちには気になる人がいます。 名前は(たける)さん。 六尺はあるんかなぁ? ノッポで男前。 最近になって、近所のお風呂屋さんで、住みこみとして働きだしたんどす。 内湯のある家は少ないさかい、みんな銭湯に通うんどす。近所の女学生は、とたんにキャアキャアさわぎだしました。 もう四十にはなるんやろうけど、二枚め役者みたいな苦味走った、ええ男なんやもん。うちらがさわぐんは、あたりまえどす。 でもな。うちが威さんを気になるのは、男前やからやおまへん。 だって、だってな。こんなん言うたら、おかしい思われるかもしれへんけど、ほんまなんえ。ウソついとるんちゃうんよ? じつは、威さんの胸には、大きな穴があいとるんよ! うち、初めて見たとき、仰天して「キャアアッ」って悲鳴あげてしもたわ。 まだ、このころは着物きとる人も多くてな。 威さんも藍のかすりの(あわせ)を着とったんやけど、何度見ても、胸のとこが大きく穴になっとるやない。穴のなかから、むこうの景色が見えるんよ。 これで気にならんわけないやろ? なんで、この人、体に穴があいとるん? ほんまは妖怪変化やない? それとも奇術師やろか? 怖いわぁ。穴あいとるのに生きとるわぁ。     
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