第1章

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  「遊び場」  蝉の鳴き声が聞こえなくなる夕暮れ。子供二人の人影が、差し込む夕日によって、道路のほうまで伸びてゆく。。 一人は、健康的で活発な、クラスのリーダーと言われてもおかしくない雰囲気を放っている。隣で一緒に歩いている、もう一人は、眼鏡をかけ常に猫背であり、話す声も蚊が鳴くほど小さいものだ。典型的な、いじめられっ子の模範のような出で立ちである。 日焼けした腕を振り回し、眼鏡の子の肩を軽く小突く。 「あの時、言い返せば良かったんだよ。だから、なめられるんだよ」 「ごめん。けど、やっぱり怖くて」 心配そうな表情で、隣で俯いている顔を覗き込むのは紘一。いつもの、大きな声で励ましの言葉を浴びせる。 おどおどとしながらも、紘一から顔を覗き込まれないように、必死に視線を避けているのは和俊。小学校のクラス内では、いつも本ばかり読み、会話もしない為、浮いた存在となっていた。いじめの標的にもなっている。 今日は、学校帰りに公園のベンチに座って、 一人で静かに本を読んでいた。しかし、いじめの主犯格と子分に運悪く遭遇。和俊を見つけると、にやついた表情を露わにした。  すぐに逃げようとしたが、ランドセルを捕まれ、身動きが取れなくなった。和俊の本を地面に叩き付け、汚いスニーカーで踏みにじった。周りに人気が無い事を理由に、殴る蹴るの暴行にまで発展した。 殴られた鼻から垂れてきた血が、上着に数滴にじんだ頃、いじめっ子の表情が暗転する。 視線の先に、帽子を目深に被った、自分と同じ位の歳の男の子。一目で紘一だと分かった。  紘一に怒鳴りつけられた瞬間、いじめっ子は一目散に公園内から走って逃げて行った。紘一に助けられた事を、和俊は今更ながら理解した。 強く殴られた左頬の痛みに耐えながら、紘一に疑問を投げかける。 「どうして、僕なんか、いつも助けてくれるの?紘一君にまで、何かあったら嫌だよ」 「馬鹿な事言うなよ。ただ、弱い者いじめする奴が大嫌いなだけだ。するほうも、されるほうも見ていてイライラするんだよ」 「そ、そうなんだ……」 「もうあの公園、行かないほうがいいな。もしかしたら、他の奴にさっきの見られてたら、面倒だ」 「そうだよね」 「仕方ない。俺が付き合ってやるから、どこか他に、邪魔が入らないような遊び場探すぞ!」
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