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さすらいの剣士
太陽を背に、その白い馬の背にはひとりの男が乗っていました。
半そでの、むらさきと赤のコントラストがまばゆい服を身にまとい、背中には1本の剣を背負っています。
ムラサキと赤なんて使い方によっては下品にも見えかねませんが、センスの良いデザインである上に男の着こなしも良く、気品さえ感じさせるたたずまいでした。
おろせばかたをおおうくらいの長さでしょうか、後ろで束ねた金色のかみの毛が、時おりふく風にゆれていました。
背中の剣のにぎりの部分には、くさりがからみついた十字のマークがえがかれています。
国か、この男の属する軍のマークでしょうか。
下には深い谷底が小さく見えている、高い高いがけの上でしたが、その男は平然とした表情です。馬もこわがりもせずしっかりと立ち、男をバランスよく乗せていました。
ギラつく太陽がこれでもかと照っていますが、あせひとつかかず、すずしげな顔。
太いまゆ、すらりと高い鼻、きりっとむすんだ口。
そして、その目は右と左のひとみがちがう色をしていました。
左目はコバルトブルーにきらめき、右目は燃えるような金色。
「なんと、あれた土地である事か。この世界には赤法師も青法師もおらぬのか」
男ははるかにながめるかわいた草原をなげいているようです。
「この世界は」という言いようは、もしかしたらこの男もデルナ女王と同じく別の世界から来たから、かもしれません。
「シュヴァルツァ、もう少しこのあたりを見ておこうか」
男は話しかけながら、軽く馬の首筋をたたきました。
鼻息をひとつはくと、馬は歩き出そうとしたのですが。
ひゅん!と何かが空をかすめ、谷底へと落ちてゆきました。
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