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「お前のお姫さん・・・姫石玲花は─────もう死んでるんだよ。一年前、通り魔に切られて」
隣の、虚空に向いていた少女の瞳が、ぎょろりとこちらに向いた。
「嘘、でしょ?」
ぎぱ、と口が裂けるように形だけの笑みが少女の顔を醜く歪ませる。
「ねえ、どうしてそんな嘘をつくのかしら。私嘘つきの大人なんて嫌いよ。
だってここにいるじゃない、貴方たちには見えないの?」
「この崇高で、優雅で、美麗で、清廉な姫石さんが。姫石さんはここにいるわ。ここで私の隣でほら!ほらみてよ!こんなにも優美な微笑をわたし、わたしに、私なんかに向けてくれているのに!!!どうして?そうやって貴方たちも姫石さんを虐めるのね?───うん、大丈夫よ姫石さん。私が今まで通り、きちんと断罪してあげるからッ」
「聞けッ!!」
ダンッ、と机を強く叩いた。
置きっぱなしだった缶珈琲ががらんと倒れて、零れた中身が机を黒く汚してゆく。
びくり、と少女が年相応に肩を揺らした。
奥から部下が、数枚の資料と写真を持ってくる。
それは一年前の通り魔事件の資料。
写真は当然────────姫石玲花の、死体写真。
姫石玲花が死んだと証明する、悪魔の紙。
それを、目の前の少女の、狂い果てた『処刑人』の眼前に置く。
少女の目が猫のように、裂けてしまいそうな程に大きく見開かれ。
ついでだらりと脂汗が少女の丸く愛らしい顔の輪郭を伝う。
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