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私の前の席の幼馴染、姫石玲花さんは私の理想だった。
教室の中で優雅に咲く、一輪の高嶺の花。
気高い女王。麗しき姫君。
その賛辞のどれもが、彼女を表現するには役不足。
「おはよ~、姫石さん!」
馴れ馴れしく肩を叩きながら気安く声をかける、化粧の濃い身の程知らずな女。
お前なんかがそんな風に触れていいひとじゃない、その人は。
野暮ったい眼鏡の奥で、そっと女を睨み付ける。
姫石さんは興味無さげに石楠花の花をくるくると白百合のような指で弄びながら、微笑んで身の程知らずな女におはようと返した。
鈴の鳴るような声だった。
クラス一、いや学校一の美少女。
つややかな射干玉の黒髪。雪のように白い肌。上品な赤い唇。ジャスミンの香り。
お伽噺の白雪姫のようだと、一目見て思った。
彼女とは小学校から一緒けれど・・・私はとても声をかけられなかった。
だって。汚してしまうのが怖くて。可憐な彼女に染みをつくってしまいやしないかと恐ろしくて。
でも、そんな心配烏滸がましかったと最近は感じる。
身の程知らずな女の嫉妬にも、男共の下劣な視線にも、彼女は汚れなかった。
穢れず、全てを塗りつぶす絶対の白。
凡俗には手の届かない、崖の上に咲き誇るロードデンドロン。
それが、私の天使。私の女王様。
物語の中の、姫君。王女。女帝。そのどれもが彼女には劣る。
最も美しき姫君。最も気高き王女。最も清き女帝。
それが、姫石玲花という少女。
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