血塗れのロードデンドロン

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だから・・・こんなこと、あってはならない。 私は、花瓶の置かれた机を呆然と見る。 周りには、酷い罵詈雑言。醜い落書き。 私の机ではない。嗚呼、私の机であったなら・・・どんなに良かっただろう。 それは、姫石さんの机だった。 いけない。こんなものを姫石さんに見せるわけにはいかない。 こんなもの彼女の、あの綺麗な縞瑪瑙のような瞳に映すわけにはいかない。 こんなものが、彼女の静かな湖面のような心にさざ波を立てさせてはいけない。 私は自分の、毎日綺麗に洗っているハンカチに掃除用具の薬液を浸し、彼女の机を擦る。 ごしごし。ごしごし。 落書きはなかなか消えない。それでも擦る。 ごしごし。ごしごし。 少し薄くなってきた。それでもまだはっきりと。 ごしごし。ごしごし。 見えないようにしなくては。彼女が見ないようにしなくては。 ごしごし。ごしごし。 消えろ。消えろ。跡形もなく。 ごしごし。ごしごし。 黒いインクが消えても、まだあの醜い感情が机に染みついているような気がして。 ごしごし。ごしごし。 まだだ。 ごしごし。ごしごし。 きれいに、綺麗にしなくては。 ごしごし。ごしごし。 ごしごし。ごしごし。ごしごし。ごしごし。 ごしごし。ごしごし。ごしごし。ごしごし。 ごしごしごしごしごしごしごしごしごしごしごしごし ごしごし。ごしごし。 ごしごしごしごしごしごしごしごしごしごしごしごし ごしごし。ごしごし。 ごしごし。ごしごし。ごしごし。ごしごし。 ごしごし。ごしごし。ごしごし。ごしごし。 ごしごしごしごしごしごしごしごしごしごしごしごし ごしごし。ごしごし。 ごしごしごしごしごしごしごしごしごしごしごしごし。 「ねえ」 不意に掛けられた声。 振り返る。 ああ───その声には恐ろしい程聞き覚えが、あった。 その──────鈴の鳴るような声には。
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