血塗れのロードデンドロン

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ーーーーーーー 肉を切る。手になじんだ包丁で。 料理するたびいつも思うのだけれど、肉を切るのはとても大変だ。 軟らかいのに、力がいる。筋もある。野菜やお豆腐のように素直にいかない。 指を切らないように気をつけて、ごりごりと包丁を上下に動かしてやっと切れる。 肉を切る。 ひとくち大に。 ニュースでバラバラ殺人の話を聞くたび、鶏肉を、牛肉を、豚肉を切るたび。 私はぼんやりと思っていた。  大変じゃないのかな、あれ・・・  と。 私くらいの女の子でも平均は50kg。大人ならもっと重いだろうし、男の人ならもっともっと重い上にかたい。 その量の肉を解体するのは、とてもとても骨が折れるだろうな、と。 「本当に、大変だね。お肉を切るのは」 肉を切る。酷く醜い、大人の男の肉を。 男はまだ生きていて、涎と汗と涙と鼻水を汚く垂れ流しながら訳の分からないことを叫んでいた。 電車で姫石さんのお尻を触った男。その汚い手で。その汚い欲を。 あろうことか、姫石さんに。穢れなき姫君に向けた。 「もう、もうしばせんがら、ゆ、ゆるじ」 罪人が何か言っている。汚い声で、何かを言っている。 「うるさい」 腕をバラバラにする前に、喉を裂いた。 ひゅーひゅーと漏れ出る息の音しかしなくなった。 姫石さんに聞かせる声ではない。 姫石さんには汚い罪人の命乞いや悲鳴より、優雅なクラシックを聞いていてほしい。 姫石さんに見せるものではない。 姫石さんには醜い罪人の血や肉塊より、ボードレールやドストエフスキーを読んでいてほしい。  ゲーテでもいいわ。 肉を切る。細かく切る。 袋に詰めて捨てやすいように。 ごりごり。ごりごり。ごりごり。 男の肉は硬いし多い。この男は脂肪も多いしべたべたする。大変だ。 嗚呼。でも終わったら、また姫石さんが私をほめてくれる。 私を、見てくれる・・・ ごりごり。ごりごり。ぶつん。びしゃ。 そのために、がんばらなきゃ。 姫石さんのための、姫石さんにふさわしい世界を造るために。 ごりごり。ごりごり。ごりごり・・・
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