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昔から、好奇心が旺盛な子どもだった。
お家の中でオモチャで遊んだり、おとなしく本を読むことも好きだったけれど、川を流れる水がどこに向かっているのかも気になったし、ひらひらと舞うチョウチョがいつの間にか視界から消えているワケも気になった。
家でおとなしくしているかと思えば川沿いを歩き続けて迷子になったり、チョウチョを追いかけて溝に足を滑らせて怪我をしたこともある。
一度気になってしまうと、自分の納得がいくまで突き詰めなければ気が済まない。そういう性格だったから、両親には困ったものだとよく笑われた。
その好奇心は私の長所でもあるけれど、程々にしておくことも大切だと、時には行き過ぎた私の行動をたしなめた。
『好奇心は猫をも殺すんだよ』と、波のさざめきのように穏やかな父の声がよみがえる。
『イギリスでは猫には九つの命があるということわざがあってね、そんな猫でさえ好奇心で命を落とすことがあるというんだ。君がこの世界のいろんなことに興味を持つのは僕にはとても喜ばしいことだけど、時にはほんの少し立ち止まって周りを見ることも覚えていこう』
幼い私の手をとって、そんなふうに語りかけてきた父の声を今でもよく思い出す。
吹き抜けるように高い空が橙色に染まり、雲はゆっくりと形を変え、日中にはあれほど五月蠅かったセミの声がなりを潜めて夜の虫が鳴き始めていた。
それらに馴染むようにして、じんわり染み入る父の声。あれほど優しく穏やかなしらべを聴くことはもうないだろう。
――好奇心は猫を殺す。
何度も父に言われたその言葉。
けれども私はその言葉の本当の意味を、理解ってはいなかったのだ。
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