Cat has nine lives.

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 校舎の裏側には、人の立ち入らない山がある。  立ち入り禁止という張り紙もなければ、とくべつ誰かに言われたわけではないけれど、私たち生徒の間では『裏山には決して立ち入らないこと』という暗黙のルールがあった。  中学に入学したばかりの頃に、一年生は上級生からそれを学ぶのだ。  行ったらダメだよ、と言われるわけでも、行かない方がいいと注意されるわけでもない。何かの折に話題が裏山へと向きそうになると、まるで示し合わせたように上級生たちが揃って話題を逸らすのだ。  幼いながらも思春期に差し掛かり、周りの空気に敏感になっている一年生は、なんとなくこの話題は触れてはいけないことなのかなと察する。  例えるなら、仲間内で誰かを仲間外れにするときのような不自然さ。さりげなさを装いながらも、わざとらしさが残るあの空気感。  話題に上ることもタブーなのか、皆が口を噤むので一年生は上級生の前で裏山の話をしなくなる。そうしてあえて逸らしていた話題に、つよく興味が惹かれる子が出てくるのは自然なことだろう。 入学して最初の夏に、一年生の内で数人が裏山へと入った。校舎の裏側の柵を越えて、草木が鬱蒼と生い茂る山へ足を向けた彼らは、すぐに踵を返すこととなった。  なぜならそこは、人の手がまったくと言っていいほど入っていない山だったからだ。腰まで届くかというほど伸びた雑草、動きの活発な虫が足元を這ったと思えば、次の瞬間には見たこともない虫が目の前を飛び交っている。  とてもじゃないが無防備に手足を出して山の中へなんて入れたものじゃない。  おまけに日中であっても一歩山へと足を踏み入れれば、聳え立つ木々の葉に日光を遮られて視界は薄暗い。その分気温は低くなり体感温度も高くはならないけれど、それがまた薄気味悪く感じてしまうのだった。  意気揚々と裏山へと突撃した一年生は、大抵の場合そこで戦略的撤退をする。ほとんどの子が、草の根をかき分けて気持ちの悪い虫が飛び交うのを我慢してまで行軍を続けようという気を失くしてしまうのだ。
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