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結局裏山には入れなかった、という話をしている同じクラスの男子生徒は、まだまだ子どもだったオレのひと夏の思い出話としてまるで大人の仲間入りをしたような表情(かお)をしている。
その男子生徒の周りで話を聞いていた子たちは、どこか座りが悪そうな落ち着かない様子で視線を交わして、この話を続けていいものか迷っているようだ。
窓から吹いてくる風が首元をつたう汗にあたり、ひんやりとした冷たさを与えてくれる。風は生温いけれど、冷房もついていない教室にはありがたい。
夏休み直前の教室は、どこか浮足立った雰囲気だった。期末テストも終わって、あとは終業式を待つばかり。じんわりと足元からせり上がってくるような夏の熱気もエネルギーに変えて、私たち学生は休みの予定を立てることに精を出していた。
中学生活三年目、あの頃より少しだけ大人に近づいた私たちは、かつての上級生たちの姿を真似る。
彼らが私たちにそうしていたように、一年生が裏山について聞いてくるとさりげなさを装って話を逸らすのだ。理由なんてわからないまま、なんとなく先輩たちがそうしていたように。
一応、噂話にも満たないものはある。時折面白がった誰かが憶測にも満たないものを口にする。
だけど誰も本当の理由を知らなかった。先生たちだって知らないし、学校の裏山が生徒たちの間でタブーとされていることだって知らないかもしれない。
上級生という立場になった私たちは、先輩たちがしていたように下級生には何も話さないでいる。けれど、同級生同士の場合はどうしたらいいか分からなくなるのだ。
口にしたからといって、呪われるわけでもない。裏山に入ったからといって誰かに咎められるわけでもない。ただ、なんとなく、そうしているだけ。
だから彼のように明け透けに話されると、どういう対応が正解なのか私たちには分からない。
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