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「でも、どうして裏山には入ったらいけないんだろうね」
最初にそう口にしたのは誰だったのだろう。
一度声が上がると、あとは堰を切ったように「たしか呪われるって」「殺人事件があったからじゃないの?」「幽霊が出るんでしょ?」「全部ウワサだろ? 私有地だからじゃねえの」と続いていく。
「ねえ、カナちゃんはどう思う?」
盛り上がっているグループとは離れた場所に座っていた私の方にまでその話題は飛び火した。私の前の子の席を借りて、後ろ向きに座り、向かい合わせになって一緒に夏休みの計画を立てていた美優までが隠しきれない好奇心を前面に出しながら私の意見を求めている。
「……ミューはどう思うの?」
関谷美優は私の幼馴染だ。まだ舌ったらずだった頃、みゆう、と正しく発音できなかった幼い時の名残で、未だに気を抜くと「ミュー」と呼んでしまうことがある。
美優はパチパチと瞬きをして、それから相好を崩した。それ、久しぶりだねえとくすぐったそうに笑っている。
「美優、笑わないでよ」
「ボーっとしてたでしょ、カナちゃん。向こうばっかりみてるんだもん」
「……気になる話してたから」
バツが悪くなってそう答えると、美優はそれさえ分かっていたように「知ってる、カナちゃんは好奇心旺盛だったもんね」と微笑む。その声のあまりのやわらかさに、居た堪れない気分になった。
美優はかつて私が起こした好奇心が由来のあれそれをすべて知っているのだ。私の右足に残る小さな傷跡がチョウチョを追いかけて溝にハマった時にできたものだということも、私が好奇心の赴くまま動いて迷子になった回数も彼女は知っているし、フラフラと夜間に出歩いて母に怒られ、家出セットを抱えて泣きながら美優の家に逃げ込んだ時のひどい顔も知っている。
昔から私の好奇心に振り回されてきた両親と違い、美優は私のそれをまるで武勇伝かのように楽しげに聞くのだった。好奇心に導かれるまま行動する私のことが面白くて仕方がないらしい。
ある時を境に、好奇心で行動しなくなった私のことを彼女はとても残念に思っている。寂しがっていると言ってもいい。
美優曰く、だってカナちゃんらしくないんだもん。
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