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「気になっただけだよ」
途切れた会話のすき間を埋めるようにして弁解のように言葉を紡いだ私の顔をまじまじと観察していた美優は、内緒話をするように顔を近づけて、期待を隠し切れない様子で囁いた。
「カナちゃん、実は裏山に入ったことあるでしょ」
核心をついてやった、というような表情に思わずこちらも苦笑を浮かべる。
「……ないよ」
「ええ、うっそだぁ。あのカナちゃんが? 絶対ウソついてる。カナちゃんが気にならならないはずないもん」
――ミューは私のことをよく理解ってる。
内心でそう思いつつ、私はひらっと手を振って否定してみせた。
「だからないってば。だって入ったらダメなんでしょ? 母さんに怒られるようなことはもうしないの」
これにはかなりの説得力があったらしい。私には多くの前科がある。家出セットを抱えて美優の自宅にお世話になった回数は数知れない。
たしかにね、と美優はおとなしく身を引いた。
「でも本当にカナちゃんはどうしてだと思う? 入ったらいけない理由、なにかあるのかなぁ……」
ううん、と腕を組み唸る美優の焼けた肌を見ながら、自分のうなじをつうっと汗が流れていくのを感じた。汗でしっとりと湿った肌に窓から吹く風が当たって気持ちが良い。
今日はとても蒸し暑い。じりじりとした日差しに照らされて、昨日まで降っていた雨が路面から蒸発していく。足元からせり上がってくる熱気の不快さと、生温い風の温度、それから幼馴染に対するほんの少しの後ろめたさ。
それらすべてが、どこか二年前のあの日と似ているなと思った。
好奇心旺盛な私が死んだ、あの夏に。
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