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③INFECTION
男と女では筋力や体格の差があるのだから当然のことなのだが、長屋との追い駆けっこは康太によってあっという間にカタがついた。
廊下の端で捕まえられた長屋の手首に強い力が加わる。
「コレ。返して貰うよ」
痛みに顔を歪める長屋に【拒否】するという選択肢はない。
有無を言わさず彼女の手からピンク色の四角い固体を取り上げたところで、英恵が二人に追いついた。
「はあはあ……コータ、ありがと」
息を切らせながら手を差し出す彼女の掌に、スマホがのせられた。
康太にニッコリと微笑むと、手元に返ってきたソレをギュッと握りしめた。
「で。このスマホをどうしようと思ったの? 壊すつもりだったわけ?」
もともとキツ目な顔立ちの英恵に睨まれた長屋は焦ったように「ち、違うっ!」と、慌てて否定した。
「じゃあ、一体どういうつもりで――」
掴みかからんばかりの勢いで問いかけたと同時にタイミング悪く予鈴が鳴る。
「……カニセンうっせーし。とりあえず教室に戻ろう」
カニセンというのは、クラスの担任の蟹田孝治のこと。
もともと気難しく、少々偏屈なところがある蟹田は、生活指導主任なので生活態度には口煩い。
本鈴一分前には着席していないと、延々と注意されるのだ。
英恵はカニセンのネチネチとした厭味を思い出して小さく舌打ちすると、「あとでじっくり話を聞かせてもらうからね」と言って長屋に背を向け、康太と一緒に元来た道を小走りで戻った。
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