0人が本棚に入れています
本棚に追加
部屋の外で何人かの声がする。
話をしながらドアを開けて部屋に入ってきた。
「傷は大分良くなっているんですが……」
「起きたばかりだから、もう少し様子を見よう」
先生だろうか、男の人がそう話しながら僕の側に来た。
「おはよう。ちょっと診せてね」
そう言って怪我をした所を確認する。
「とりあえずは大丈夫だな。あとはちゃんとご飯を食べて、体力つけるんだよ」
先生は笑顔を見せると、女の人に話をして部屋を出ていった。
あのあと、僕はどうなったのだろう。
自分の身体を見ても、記憶が曖昧でよく分からない。
これから僕は、どうなるのだろう……
何も分からない不安もあったが、疲れているせいか眠気に襲われ、そのまま眠ってしまった。
どれくらい眠っていただろう。
遠くで話し声がする。
「目を覚ましたって連絡が来たので」
「はい、こちらですよ」
近付いてくる気配を感じて、僕はそっと目を開いた。
「よかった、あぁよかった」
その人はあのお婆さんだった。
僕は驚いて起き上がった……つもりだった。
(……あれ?)
「傷はもう良くなってきているんです。ただ、後ろ足が……」
(足が……動かない)
「そうですか……この子が怪我をしたのは、わたしのせいなんです」
そう言うと一枚の紙を出した。
「これをわたしに届ける為に……」
それはあの日記の最後のページだった。
その紙を見せながら、涙声で僕に言った。
「ちゃんと受け取ったわ。ありがとう、猫ちゃん」
それから僕はお婆さんに引き取られた。
僕の後ろ足はもう動かないけど。
緩い下り坂のあの道はもう歩けないけど。
あの人の言葉が届けられたから。
僕にも家族が出来たから。
まだ慣れないけど、なんとなく……幸せだ。
最初のコメントを投稿しよう!