あの人

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 部屋の外で何人かの声がする。  話をしながらドアを開けて部屋に入ってきた。 「傷は大分良くなっているんですが……」 「起きたばかりだから、もう少し様子を見よう」  先生だろうか、男の人がそう話しながら僕の側に来た。 「おはよう。ちょっと診せてね」  そう言って怪我をした所を確認する。 「とりあえずは大丈夫だな。あとはちゃんとご飯を食べて、体力つけるんだよ」  先生は笑顔を見せると、女の人に話をして部屋を出ていった。  あのあと、僕はどうなったのだろう。  自分の身体を見ても、記憶が曖昧でよく分からない。  これから僕は、どうなるのだろう……  何も分からない不安もあったが、疲れているせいか眠気に襲われ、そのまま眠ってしまった。  どれくらい眠っていただろう。  遠くで話し声がする。 「目を覚ましたって連絡が来たので」 「はい、こちらですよ」  近付いてくる気配を感じて、僕はそっと目を開いた。 「よかった、あぁよかった」  その人はあのお婆さんだった。  僕は驚いて起き上がった……つもりだった。 (……あれ?) 「傷はもう良くなってきているんです。ただ、後ろ足が……」 (足が……動かない) 「そうですか……この子が怪我をしたのは、わたしのせいなんです」  そう言うと一枚の紙を出した。 「これをわたしに届ける為に……」  それはあの日記の最後のページだった。  その紙を見せながら、涙声で僕に言った。 「ちゃんと受け取ったわ。ありがとう、猫ちゃん」  それから僕はお婆さんに引き取られた。  僕の後ろ足はもう動かないけど。  緩い下り坂のあの道はもう歩けないけど。  あの人の言葉が届けられたから。  僕にも家族が出来たから。  まだ慣れないけど、なんとなく……幸せだ。
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