あの人

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 いつもの道、いつもの風景。  僕はあの家の前を通る。  緩い下り坂沿いにある一軒家。  小さい庭と部屋の窓が見える。  少し窓が開いているようで、薄いカーテンが揺れている。  窓越しに見える、あの人。  あの人はいつも椅子に座って、テーブルに頬杖をついている。  手元にはノートのような物が置いてある。  何か書いているのか、物思いに耽っている。  僕はゆっくり歩きながら、でもあの人と目が合わないように通り過ぎた。  いつから気になり始めたのかは覚えていない。  でも、そんなに前でもないと思う。  気がついたらあの人の事が気になっていた。  いつも何か考えているような、どこか寂しそうなあの人の空気感がそうさせるのかもしれない。  それからしばらく雨の日が続いた。  雨が降っている時は、僕はあの道には行かない。  雨は嫌いだ。  雨の日はどうしているのだろう。  あの人は今日も頬杖をついて、何か考え事をしているのだろうか。  僕は早く晴れてくれないかと、空を睨み付けるように見上げた。
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