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〈1998年/日記〉
震えた手で書いたような、あまり綺麗とは言えない、でもしっかりと書かれた文字。
きっとあの人は、もういないのだろう。
いや、本当はずっと前から、もういなかったのかもしれない。
なんとなく、そんな気がしていた。
だから僕は、あの人と目を合わせないようにしていたのだ。
目を合わせてはいけないと思っていたから。
きっとあの人も、あの家が好きだったのだろう。
自分はもういないのだと、解っていたのかもしれない。
でも離れたくなかったのかもしれない。
いや、誰かが迎えに来てくれるのを、待っていたのかもしれない。
それはもう、僕の憶測でしかないけれど……
瓦礫から庭が少し見えて、部屋のあった場所はなんとなく分かった。
あの人がいつもいた部屋。
もうテーブルも椅子も無いけれど、あの人はずっとここにいた。
この部屋が好きだったのか、それともあの日記があったからこの部屋にいたのか。
気が付くと僕は、部屋のあった場所に立っていた。
瓦礫を踏む音が静かに広がる。
歩けそうな場所を探しながら、辺りを見回す。
すると奥の瓦礫の隙間で、何かが揺れているのが見えた。
なんとなく気になって、ゆっくりとそこへ近付いてみる。
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