あの人

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 それは紙だった。  引っ張ってみると、意外とすぐに出てきた。  その紙には読み難いが文字が書いてあった。 〈2月11日〉 〈今日はちょうしがいい。つまが笑っていた。ぼくもうれしい〉 〈2月12日〉 〈もうあまり字がかけない。日記はおわりにしよう〉  そして紙の下の方には 〈いままでありがとう。ぼくがいなくても、いつも笑っていておくれ〉  それは大切な最後のページ。  あの人が残した最期の言葉だ。  僕は急いで道に戻って、お婆さんが歩いて行った方向に走った。  急がないと、この紙を渡さないと……  幸いお婆さんはゆっくり歩いていた。  僕が走ればすぐに追い付けるだろう。  曲がり角でお婆さんが居ないかを確認しながら、しばらく走って行く。  少し大きな通りの向こう側に後ろ姿を見つけた。 (あの人だ!!)  僕は追い付いた嬉しさで全力で走った。  その瞬間、僕は注意を怠った。  一瞬何かに当たり、高く飛ばされ地面に叩き付けられた。 (渡さなきゃ……)  身体を起こそうとしてみるが、痛みで立つ事が出来ない。  お婆さんがどこに居るのかも分からない。  意識が遠くなる中、周りで何か言っている声が聞こえる。  そして僕は意識を失った。  気が付くと僕は知らない部屋に居た。  身体には包帯が巻かれて、傷の手当てがされている。 (生きてる……)  不思議な気持ちで部屋を見回していると、ドアが開いて誰かが入ってきた。 「あら、目が覚めたのね」  そう言いながら女の人は僕に近付くと 「もう大丈夫、傷も大分良くなったわ。先生呼んでくるね」  と、笑顔を見せて部屋を出て行った。
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