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渡辺春香と出会ったのは四月十六日の夕方だったと思います。
街のスーパーで、彼女は買い物をしておりました。文房具コーナーだったと思います。ノートだかシャープペンシルだかを物色しておりました。
彼女の制服を見て、私は、ああA女学院の子かと思いました。この学区では有名なお嬢様学校です。
それにしても可愛い子でした。私は彼女の背後に忍び寄り、よく彼女を観察しました。
お嬢様学校の生徒らしく、まじめそうな顔でした。私はいつものように妄想しました。
(ああ、こんな子と恋愛ができたら、どれほど楽しいだろう)
私は彼女と手をつなぎ、キスをして、笑い合い、抱き合いました。
もちろん妄想です。そんなことが実際にできるはずありません。
そんな妄想に浸っていたので、私は、彼女が急に振り返ったことに気付きませんでした。このとき私と彼女の距離は五十センチもなかったと思います。ですから、彼女が急に振り返って、一歩を踏み出したところ、私と思い切りぶつかってしまったのです。
そのときの彼女の目、声。態度。今でもよく、実によく憶えています。
「おじさん、邪魔!」
吐き捨てるように彼女は言ったのです。
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