遺書

12/15
前へ
/15ページ
次へ
 少女の罵りの言葉、舌打ち。そしてあの顔。彼女の顔は、成功者が敗残者を罵るときのあの顔でした。私がもっとも嫌いなあの顔。あのにやけ顔! 少女は別ににやけてはいなかった。しかし解る、私には解りました。少女が私を邪魔者呼ばわりしたときのその顔つきは、私をこれまで馬鹿にしてきた人間達の、あの顔つきと同じ種類のものだ!  こいつは俺を馬鹿にしている!  そう思ったとき、私の中の何かが切れたのです。  今まで同級生や、上司や先輩に馬鹿にされてきたけれど、さらにこんな子どもまでが自分を馬鹿にするのか。  許せない、なぜ、俺がいったいなぜ、こうまで他人から侮辱される人生を歩まねばならぬのかと、怒り狂いました。  それまで溜まっていたものが一気に噴出してきました。この女を、私を馬鹿にしたこの小娘をぶっ殺して、この私がどれほどに恐ろしい人間か世間に思い知らせてやる、そう思いました。  私は殺害を決意した。  少女の後をつけ、彼女がスーパーから出たあともずっと尾行し、やがて人気のないところまで来ると、そのまま後ろから近づいて首を絞め、殺害しました。  殺害は驚くほど冷静でした。かっとなって殺した、という話をよく耳にしますが、確かに私はかっとなったけれど、殺す瞬間は極めて冷静にことを済ませたのでありました。  しかし今になってみれば、彼女は確かに私を侮辱したには違いないけれど、それは所詮一瞬のものに過ぎないから、どうせ殺すなら私をこれまで馬鹿にした人間の誰かを殺したほうが良かったかもしれん。     
/15ページ

最初のコメントを投稿しよう!

13人が本棚に入れています
本棚に追加