遺書

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 嫌なことです。私の脳みそは決して出来が良いほうではなく、学校の成績はごく平凡なものであったことは既に書きましたが、こういった過去の嫌な出来事だけはきっちりと憶えているのです。ああ、この記憶力。もう少し正しいことに使えていたら良かったのに。  こういう時に、たまには昔の良い思い出、両親や友達との優しい記憶が蘇ることも、ないわけではないけれど、嫌な思い出に比べるとその回数はずっと少ない。回数が逆であったなら本当に良かったのに。  誰か教えてください。  人間とは誰しもこうなのでしょうか。嫌な記憶、不快な思い出をずっと引きずって生きているのでしょうか。  それともこれは私だけで、他の人たちはそうでもないのでしょうか。そんなことはないと思うのですが、どうか教えてください。  あなたの場合はどうですか?  過去を忘れることができていますか?  過去の嫌な思い出はありませんか?  なかったらいいのですが、誰でもひとつくらいはあるでしょう。その思い出をうまく忘れるか、それともこらえるか、出来ていますか。  考えてください。  思い出してください。  あなたが本当に嫌だったことを。  本当に消えて欲しいと憎んだ人間のことを。  そしてその人間が、どんな顔であなたを馬鹿にしていたかを。  あなたの人生にとって目障りでしかなかった人間のことを。  思い出せていますか? 忘れてはいませんか?     
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