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「今日で三年ね・・」
ポツリと呟いた武史の母の言葉に明美は我に返った。
「そうですね・・・」
明美はなんとか頭を振り絞って答えたが、それどころではなかった。
私は本当に死ぬのだろうか。
誰にも言えない。相談もできない。もしかしたら私は死ぬかもしれないって事は・・。
明美の彼、武史が死んだのは交通事故だった。見通しの良い交差点で信号が青に変わり、車を発進しようとしたところで赤信号を無視した黒いワンボックスカーが右折してきた。ワンボックスカーは武史の車の目の前に出てきてそのまま正面衝突した。武史は運悪くぶつかった衝撃で頭を強く打ち、即死だったという。
私はその日、家の近くの喫茶店で武史と待ち合わせをしていた。結婚式を控え、式場の見学をしようと前日から二人で楽しみにしていた。車で迎えに来るという武史が三十分経っても、一時間経っても来なくて嫌な予感が胸をよぎっていた。
一時間半が経とうとした時、携帯電話に武史の母から連絡が入りすぐに武史が運ばれた病院に駆け付けたが、その日は武史の亡骸とは会う事も出来なかった。
告別式が終わり、武史の遺体の火葬が終わる頃、武史の母から「あなたは・・幸せになってね。武史の分まで。」と言われたが、曖昧にしか返事は出来なかった。
武史の分まで幸せになって。
武史がいなきゃ幸せになんてなれっこない。
ねぇ、なんで。なんで武史だったの。なんで武史が・・!!
何も考えなくても涙が枯れる事は無く、毎日泣き続けた。そして武史が死んでしばらくしてから夢でうなされるようになった。
真っ暗闇の中から声が聞こえてくる。
「明美・・明美・・」
呼ぶ声の方に走って行っても誰もいない。声は確かに武史の声なのに。
「武史、武史ーーー!」
いくら呼んでも、武史は姿を現さなかった。
そしていつの間にか、何故か私が車を運転する場面になる。近くの喫茶店に向かう道を走っていた。
右折しようとした瞬間、
「次はお前が死ぬ番だ。」
そこでハッと目が覚めると、いつもと変わらない部屋の光景が目に映った。
毎朝ここで目が覚める。耳元で囁かれる声。今まで聞いた事の無い男の声。
こうして毎日毎日同じ夢を見続けていた。
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