七夕の夜に願うこと

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 「去年亡くなった祖母に、一度だけ相談したことがあるの。そうしたらこう言ってくれた。『変わりたいと思えば、人は変われる。ありきたりな言葉かもしれないけど、今日が辛くても、明日は良いことがあるかもしれない。いつか、素敵な出来事に出会う日が来るかもしれない。だから、今はただ毎日を生きているだけでいいの。急がなくても大丈夫』って」  その祖母の言葉を信じて、彼女は今も毎日を過ごしているのだそうだ。  「私は、まだ先のことを思うのが怖いから、今年の短冊に願うことは何もないと思った。だったら、来年は何か願うことが見つかると良いなと思ったの。……願うことがあるってことは、これから先の未来に望むことがあるってことでしょう? 私は、それを探してみたいと思ったの。これが、短冊に『願うことが見つかりますように』って記した理由」  そこまで話して、つまらない話だったでしょう? と、彼女は笑った。  「そんなことないよ。……願うことが見つかると良いね」 「……ありがとう」  彼女がそう言って笑った時、明るい音楽が辺りに響いた。  「友達から電話だ。私、もう行かないと……」 「ちょっと待って。短冊に、何か用事があったんじゃないの?」  僕が聞くと、彼女は柔らかく笑った。  「本当は、破って捨てようと思っていたの。だけどあなたと話したら何だかすっきりしたから、そのままにしておくことにする」  彼女はもう一度ありがとうと言って、今度こそ神社を出て行った。
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