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『勘違いしそうになる』
加瀬くんのあの発言のあったあの日から、
私達は毎朝、駅からバス停までの道を並んで歩いた。
たいてい加瀬くんが何か話をして、
私がドキドキしながらも何とか「うん。」と相槌を打ったり、頷いたりして返事をする。
2人とも、ほとんどずっと前を向いたまま歩きながら話し、
バス停のほんの少し手前になると、加瀬くんが立ち止まって自転車に跨がる。
「それじゃあ、教室でまた。」
と彼が言って、私が「バイバイ」と軽く手を振る。
加瀬くんはそれを見届けると、自転車のペダルをこいで、あっという間に遠ざかって行く。
そして私は教室に入ると、私よりも早く学校に到着している加瀬くんの姿を探すのだ。
目が合うと、私は何だかくすぐったい気持ちになる。
――だって、
さっきまで加瀬くんと私は、一緒に居た。
それなのに今日初めて会ったように、さつきや長谷部くんと朝の挨拶を交わす時、素知らぬ顔でまた「おはよう」と言い合う。
そういう時加瀬くんは、まるでイタズラを隠す少年みたいな顔をして、私を見る。
『俺と広崎の秘密』
そう言っているようで、私はまた、ほんのりと顔を赤らめながら口元を緩ませてしまうのだった。
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