第3章

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******* 家庭科室の中は、焼きたてのカップケーキの甘い香りでいっぱいだった。 私は、クッキング部に所属している。 作るものは、たいていパンやお菓子類が多く、 友達とワイワイお喋りしながら作って、焼いて、出来立てを食べながらまたお喋りして。 すごく楽しくて、いつもあっという間に時間が過ぎていった。 今日は、カップケーキを作った。 焼きたてを少し冷ましてから、カップケーキにチョコペンで模様を描く。 私の隣りでは桃子ちゃんが、彼の名前を書いた横にハートマークを描いていた。 「これ、明日渡すの。」 桃子ちゃんが、嬉しそうに言った。 ……いいなあ、幸せそうで。 横目で、真剣な顔をしてハートを描く様子を眺めていると、 桃子ちゃんが私の視線に気がついて、顔を向ける。 「ね、梨奈ちゃんは誰かにあげないの?」 「え…私?」 加瀬くんの顔が、パッと頭に浮かんだ。 ……明日の朝、持って行って渡したいな……。 あ、でも加瀬くん、甘いもの平気かな…。 もし渡すとして、何を描こう。桃子ちゃんみたいに、まさか名前やハートは描けないし……。 そうだ。 イニシャルの1文字『K』だけにすれば、みんなに分からない。 一番形の綺麗なのを選んで、真ん中に大きく『K』と描いた。 他のカップケーキにも、AとかRとかSとか、色々なアルファベットを描いていく。 「可愛いー。梨奈ちゃん、センスある。」 桃子ちゃんが褒めてくれた。
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