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家庭科室の中は、焼きたてのカップケーキの甘い香りでいっぱいだった。
私は、クッキング部に所属している。
作るものは、たいていパンやお菓子類が多く、
友達とワイワイお喋りしながら作って、焼いて、出来立てを食べながらまたお喋りして。
すごく楽しくて、いつもあっという間に時間が過ぎていった。
今日は、カップケーキを作った。
焼きたてを少し冷ましてから、カップケーキにチョコペンで模様を描く。
私の隣りでは桃子ちゃんが、彼の名前を書いた横にハートマークを描いていた。
「これ、明日渡すの。」
桃子ちゃんが、嬉しそうに言った。
……いいなあ、幸せそうで。
横目で、真剣な顔をしてハートを描く様子を眺めていると、
桃子ちゃんが私の視線に気がついて、顔を向ける。
「ね、梨奈ちゃんは誰かにあげないの?」
「え…私?」
加瀬くんの顔が、パッと頭に浮かんだ。
……明日の朝、持って行って渡したいな……。
あ、でも加瀬くん、甘いもの平気かな…。
もし渡すとして、何を描こう。桃子ちゃんみたいに、まさか名前やハートは描けないし……。
そうだ。
イニシャルの1文字『K』だけにすれば、みんなに分からない。
一番形の綺麗なのを選んで、真ん中に大きく『K』と描いた。
他のカップケーキにも、AとかRとかSとか、色々なアルファベットを描いていく。
「可愛いー。梨奈ちゃん、センスある。」
桃子ちゃんが褒めてくれた。
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