第3章

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カップケーキのラッピングを終えたあと、携帯を開いてこの前恋助さんから届いたコメントを読み返してみた。 毎朝駅からバス停まで、加瀬くんと2人きりで過ごす時間が出来たことについて書いて投稿したものへのコメントだった。 『ヒナさん、彼と素敵な秘密が出来ましたね。 これをみる限り、彼とヒナさんはこのまま上手くいくのでは?という気がします。』 毎朝、わざわざ自転車を降りてバス停まで付き合ってくれる加瀬くんの態度から、 私にも「嫌われてない」という自覚というか、僅かな期待があった。 でも加瀬くんは、偶然会ったのが私でなく他の人だったとしても、同じ様にバス停まで付き合ってあげるかもしれない。 私は特別な訳でなく、好きか嫌いかと言ったら、好きの部類に入るというだけ……。 恋助さんが言う様に「このまま上手くいく」というほど、進展があった訳ではないのだ。 『朝の秘密の時間は、2人きりなのにフリーズしないでいられるようですね。 何かいつもと違うことはないか、思い返して見て下さい。』 ……そう、確かに。 自分でも不思議だった。 初めの頃は、「おはよう」のタイミングさえ逃してしまうほど固くなっていたのに、 今では緊張しながらも、私は毎日加瀬くんと2人きりで朝の時間を過ごせている。 その緊張感というのは、クラス発表の時のような「どうしよう」という焦りを伴うものではなく、 もっと心地良い緊張感だ。 会話が途切れることもある。 でも私は、前よりもその沈黙を息苦しく感じなくなっていた。 そしてそんな小さな自信から、 手作りのカップケーキを渡す、という大胆な発想が生まれたのだった。
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