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※※※ 彩羽 8歳 拓、和也 9歳 ※※※ 「ただいまー!麗子ママ!」 「あら、おかえり!いろちゃん!」 拓の家は食堂を経営している。 日中、祖母の書道教室が開かれている間、彩羽は学校が終わると、まず拓の食堂に立ち寄っていた。 「おやつあるから手洗っといで」 「はーい!」 手洗い場で手を洗い、フロアに戻るとテーブルの上に手作りのプリンが置かれていた。 ランチタイムが終わり、夕方の込み合う時間まで、少しだけ食堂が静かになる。 その間は、子ども達がおやつを食べたり、宿題をしたりすることが許されているのだ。 「拓ちゃんは?」 彩羽はプリンを頬張りながら訊ねた。 「あら?一緒じゃなかったんだね。拓なら和と野球しに行ったんじゃないかな」 拓の母親である麗子はテーブルの割り箸や調味料をチェックしながら言った。 「今日、お掃除当番だったから…」 二人に置いてきぼりをくらったと分かり、彩羽は手を止めてうつむいた。 「まだ、そんなに経ってないから、遠くには行ってないんじゃない?」 それを聞いた途端、彩羽は残りのプリンを口に押し込み椅子から立ちあがり、店のドアへ走り出した。 「気を付けるんだよ!いろちゃん!」 「はーい!いってきまーす!」 勢い良く外に飛び出した彩羽は、一目散に近所の公園へ向かった。 家から五分ほどの少し大きめの公園が、いつも子ども達のお決まりの遊び場だったのだ。
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