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「拓は、やめようって言ったんだ」
少し歩いたところで和也が言った。
「お前が帰ってくんの、待ってようって。今日は中学校の方の新しい公園に行こうってなって…。でも、お前はそこ知らないからって」
そういえば、誰かが新しい公園が出来るって言ってたっけ…。
彩羽は和也に背負われながら、和也の話を黙って聞いていた。
「だから、拓は悪くない。拓はいっつもお前のことばっかだ。だから…拓に怒んじゃないよ」
「和…くんは?」
和也は何も答えなかった。
「和くんが…見つけてくれたでしょ?いろはを…」
「あのなー。ここ知ってんの、俺だけだろ?」
「あ!」
彩羽はようやく納得した。
和也は一人になりたい時、いつもここに来てゲームをしていること、そこにたまたま強引に彩羽が着いてきたこと、だから他の皆には内緒にしろと言われていたこと。
和也以外、誰も彩羽がここにいるとは分からなかっただろう。
和也でさえ、まさか彩羽がこんなに遠くまで一人で来るなんて思っていなかったのだから。
「ごめん…なさい…」
彩羽がここにいたことが分かったら、和也の秘密基地は秘密でなくなってしまう。彩羽は申し訳なさそうに言った。
「バカだね…お前は…クク…」
和也がクスクス笑うので、その振動がくすぐったかった。
足の痛みはとっくに治まっていたが、彩羽はこのままずっと、和也の背中に背負われていたかった。
少し汗ばんだ和也の背中からは、夏の始まりの匂いがしていた。
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