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「いらっしゃいまし」
旦那様の声が聞こえ、奥様のお手伝いをしていた私は、作業を中断して店頭に向かった。
「すみません、ここはなんでも頼まれてくれるよろず屋だと聞いてきたのですが」
「ええ、ええ。なんなりと」
この前吉太郎と名乗ったその人は、今日は「古着を買い取ってほしい」と行李を背負ってやってきた。
それならばなぜ直接古着問屋に行かないのかしら。
なんて言うのは野暮ってもの。私がそんなことを思ってしまうようじゃ、よろず屋も形無しだしね。
でも、ここは船宿だけでも十分やっていけるし、よろず屋稼業は実入りがよくなくて損ばかり。とも思う。まあ、そういうことを考えるのは旦那様に任せておきましょ。
お客様のことはあれこれ詮索しないのが女中として働く者の基本的な礼儀。
私は、いつものように帳簿を差し出した。
その人は、名前を書く前に框に腰掛けて行李を置いた。とてもたくさんの古着が入っているとは思えないくらい軽そう。
「ありがとう、お女中の方」
「志津と申します」
本当は女中がわざわざ名乗る必要はないのだけど、試してみた。「飛脚の清兵衛」の時にも名乗ったから。
「いい名だ」
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