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きれいな瞳のその人は、初めて私の名を聞いたように微笑んだ。
その人の今日の名前は太助といった。
太助さんは、旦那様に連れられて二階に上がった。
それから、その人はぱたりと姿を見せなくなった。
とうとう悪事がばれて、捕まってしまったのかしら。
それとも、なにか面倒事に巻き込まれて、ここへは来られなくなってしまったのかしら。
最悪、もう死んでしまっているのかもしれない。
いずれにしても、もう会うことはないのかもしれないわね。
ただの女中、それ以上でも以下でもない私があれこれ考えを巡らせたって、答えはわからないし、あの人にまた会えるかもわからない。
それでいい。ここはいろんなところからいろんな人がやってくる船宿だもの。
そんな風に思っていたけれど、彼はまた、お店に現れた。
今度は、きちんとした洋装に身を包んでいた。
腰に刀を差し、西洋風の帽子を被っている。私は初めて、こんなに近くでざんぎり頭と洋装の人を見た。
「すみません、ここはなんでも頼まれてくれるよろず屋だと聞いてきたのですが」
いつだか来た時と同じ台詞を言って、きれいな瞳のその人は、私に笑顔を向けた。
洋装がよく似合う。今まで見た中で一番男前。
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