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そんなことを考えている場合じゃないと気づき、「はい、ここはよろず屋・東雲屋でございます」と答えて、旦那様を呼びに行った。
いつものその人の声が奥まで聞こえていたのか、呼びに行く前に旦那様が出てきた。
旦那様の様子がいつもと違う。
青ざめて、鳩が豆鉄砲を食らったみたいな顔をして、彼を見ている。
「東雲屋与兵衛。お主をアヘン密売の咎で逮捕する」
彼の声を合図に、きれいな瞳の彼と同じ格好をした男の人たちが、入り口から入ってきた。
「くそう、お前、警察の人間だったのか!」
旦那様は咄嗟に店の奥に逃げようとした。
でも、彼が目にも留まらぬ速さで旦那様の前に回り込み、刀を鞘ごと抜いて思い切りお腹を差した。
うぐっと旦那様は呻き声を上げて倒れた。
何がなんだかわからないうちに、旦那様は彼のお連れの人たちに連れて行かれてしまった。
1人残った彼は、私の方に近づいてきた。
私は身をこわばらせる。
「あ、あの、私は何も知らないんです。本当です」
「わかっていますよ」彼は、さっきとは別人のような笑顔を見せた。
「帳簿があるでしょう。いつもつけていた。それをいただけませんか」
証拠品として持っていくのだろうと私は合点がいった。逆らえば何をされるかわからないから、黙って帳簿を差し出した。
「ありがとう。お志津さん」
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