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「広崎、あのさ…」
加瀬くんが、どうやって話そうかと言葉を選ぶようにして、話し始めた。
「今朝はごめんな。」
私は返事の代わりに、首を横に振った。
「誰かに聞いたかもしれないけど、今日は隣りのクラスの鈴…」
「知ってる。」
……加瀬くんの口から、鈴村さんの名前…聞きたくない……。
そう思ったら自分でもびっくりするくらい大きな声で、私は加瀬くんの言葉を遮っていた。
「え…」
「あ…」
加瀬くんの驚いた顔を見てハッと我に帰った私は、途端に恥ずかしくなってくる。
私は持っていたプリントをギュッと抱き締めて、体を横に向けた。
……私ってば、何もあんな大きな声で……恥ずかしすぎる……。
自分の予想外の行動に赤くなって俯いていると、加瀬くんは私に言葉の続きを促した。
「知ってる、て何を知ってるの?」
「それは、だから…」
「朝、教室であいつらが言ってたこと?」
コクン、と頷く。
「朝、一緒に登校したのは本当だよ。」
「……」
「鈴村に話さなきゃいけないことがあって…本当は学校で待ち合わせたんだけど、偶然駅で会ったから。
だから学校まで一緒に行って、それから話をしたんだ。」
……怖い。胸が苦しい。
これ以上、聞いていられない……。
加瀬くんの口から、私が恐れている言葉が飛び出すのが怖くて、私は顔を背けて言った。
「……も…やめて……」
「え…」
「加瀬くんの言いたいことは、分かったから……」
「広崎、何言って……」
「……朝、もう一緒に行けないんだよね。」
早く加瀬くんの前から立ち去りたくて、私は知らない間にいつもより少し早口に話していた。
「私、明日から時間変えるね……」
「……」
「プリント、持ってくれてありがとう……」
急いで立ち去ろうとした私の肩を、加瀬くんが捕まえて自分の方に向けた。
加瀬くんの目が、大きく見開かれる。
「……広崎…泣いてる?」
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