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私はそっと目を閉じて、あの日の事を思い浮かべてみた。
確か、あの時…私はすごくドキドキしていた。
いつもよりも、ずっと…。
「他には思い出せない?」
俯いて目を閉じたままの私に、加瀬くんの優しい声が響いてくる。
少しだけ、保健室にいたあの日と重なる状況に、わずかだが記憶が蘇ってきた。
『今のは…夢?』
あの時、何かが触れた気がして、私はおでこにそっと手を当ててみた。
けれども、それ以上何も思い出せそうにない。
「加瀬くん、私やっぱり、これ以上何も…」
閉じていた目を開いて顔を上げると、加瀬くんは切なげに私を見つめて言った。
「それ以上は、思い出せない?」
「…うん…」
「だったら…」
さっきよりも熱っぽい目をして、加瀬くんが言った。
「俺が、思い出させてあげようか。」
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