第一章出会い

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※※※※ 私は、あの時の猫を“まる”と名付けて一緒に暮らして、もう三年がたっていた。 相変わらず、息子からは連絡もない。 もう私も、来月で定年を迎える。 “まる”は、飼われているくせに、態度が大きい。 あまり、膝に乗るなんてことはない。 抱かれるのも、好きではない。 ただ、してほしいことがある時は、上手に甘えてくる。 その時のしぐさ、目つきはもう可愛くて、言うとおりに動いてしまう。 言うとおり、というのもおかしなものだが、たまたま私が“まる”の気持ちを感知して、望むことをしてあげたということだろう。 それくらいに、気持ちがわかるくらいに、好きになってしまっていた。 来月になったら、“まる”といつも一緒に過ごすことができる。 ゆったりと昼寝でもしようかな、一人と一匹で。 ※※※※ そんな時に、“まる”は病気になった。 私が退職してからは、ほとんど寝たきり状態。 だけど、水を飲ませてあげて、ご飯を食べさせてあげる、毎日介護した。 一か月くらい、そんな状態が続いた。 そして、昨日からは水も、ご飯も受け付けてくれない。 不安で、心配で、私は何も手につかない。 この子を諦めなければならないのだろうか。 最初は、少し飼うことをためらっていたが、一緒に生活した時間は幸せだった。 あの瞳で見つめられると、ついついおやつをあげてしまう。 “まる”に使った私の時間は、一人の寂しさを忘れさせてくれた。 最近は、一日中“まる”の事を考えている。 ついつい泣いてしまいそうになる。 そんな時、電話がかかってきた。
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