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Kyousuke side
Kyousuke side
プロローグ
覚えているのは噎せ返るような花の匂い。
真っ赤な口紅と同じ色の爪と服。
印象に残るはずの目元はまったくと言っていいほど覚えていないのに、やたらと記憶に残る色。
異様な匂いに思わず息を止めて前を見ると、真っ赤な服と盛り上がった乳房が眼前に迫っていた。
ムワッと匂いが濃くなって吐き気をもよおした。
声が出なかった。押し倒されているとはいえ相手は女だ。力の差は歴然で、小学生とはいえ百七十を超えた男が敵わないはずがない。なのに身体は硬直したようにピクリとも動かなかった。
やめろと声を出そうとすると、口の中に酸っぱいものが混じった。息をはこうとするだけで喉元まで出かかって、必死に口元を押さえた。
女はそんな如月恭介の状態など物ともせずに、ニヤリと面白そうに口角を上げた。
「ホントいい男ね」
粘着質で媚びるような女の声がした。
「やめろ……やめて、くれ」
請うように告げた言葉は掠れ震えていた。
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