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「佐伯さんが言ったんだぞ。お前も連れて来いって、会いたいんだと」
「そうなんですか?」
「だから迷惑とか考えんな」
ポンと頭に手を置かれて撫でられた。雑誌の撮影と聞いても真人にはピンとこない。本は音声で読むことが多いし、写真の多い雑誌は真人にとっては意味のないものだからだ。けれど恭介が昔どういう仕事をしていたのか知れるなら行ってみたいという気持ちもあった。
どうせ一人で観光なんてできるはずもないし──そんな風に考えてばかりいる卑屈な自分が嫌になる。
ホテルに荷物を預けて再びレンタカーに乗り込んだ。国際通りや首里城などを巡りデートスポットでの撮影に臨むらしい。
駐車場に車を停めると、恭介は真人を木陰にある椅子まで案内し待ってろとどこかへ行ってしまった。もしかしたらもう撮影は始まっているのかもしれない。恭介を呼ぶ声がところどころから聞こえた。
「君が真人くん?」
聞き覚えのある声に横から声をかけられて上へ視線を向けると、濃いグレーのスーツ姿を着た男性が立っていた。
「もしかして……佐伯さんですか?」
「そうだよ。いつも恭介が世話になってるね。無理言って恭介に連れて来てもらったが迷惑じゃなかったかな?」
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