Masato side

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「恭介はね。ただ生きてるだけだった。何も目的もなく楽しいと思える何かもなく、死んで私に迷惑をかけるのが嫌だから自殺という手段を選ばなかったに過ぎないんだよ。君が恭介の生きる希望になってくれたことを、何より嬉しく思う。それにね、あいつは元々誰かの世話を焼くのが好きなんだ。いい主夫だぞ。金もあるし家事能力もある。それに時間もある」 「俺にはもったいない人なんです」 「君に恭介がどう見えているかは知らないが、完璧な人間なんていないだろう? たとえば真人くんは目に障害がある。恭介は心が壊れたことがある。私だってずっと、ずっと何年も前から後悔し続けてることがある。私にとって恭介が幸せでいてくれることだけが贖罪になるんだ」  恭介は義理の母親にされたことを誰にも言ったことがないと言っていた。けれど、佐伯はきっと知っているのだろう。それで何もできなかった自分を責めているのかもしれない。 「君たちが互いに補い合って生きてくれたらいいと思ってるよ。ただそれにはちょっと自信が足りないね」 「自信……ですか?」 「愛されてる自信も、恭介と共に生きていく自信もだよ。ほら……見えるかな? 恭介の隣にいる女性モデル」 「いえ……恭介さんが立っているのはわかりますけど、女の人の顔までは」  距離にして三メートル程度だろう。恭介の目立つブロンドの髪がぼんやりと見える。たしかに隣には髪の長い女性がいるようにも見えるが、ハッキリとはわからなかった。 「そうか。恭介は目立つからね。こうなることはわかってたんだけど……女性ってほんと顔のいい男に弱いんだよなぁ」     
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