息子2

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リビングのドアを開けた。電気がついていないから誰もいないと思っていたが、いた。  父さんは額に手を当てながら椅子に座っていた。やつれた顔でこちらを見てくる。俺はちらりと父さんの方に視線を向けた後、部屋へ向かおうとした。 「詠一、ちょっとこっち来てくれ」  捕まった。めんどくさい。  俺はしぶしぶ父さんの向かいに座る。 「お前、母さんから離婚について何か聞いていたか?」 「別に、昨日の夜離婚しようと思うって聞かされただけ」 「お前はどう思うんだ」  父さんは俯いたまま、こちらを見ずに聞いてくる。よっぽど堪えているんだろうな。 「無理に一緒にいる必要はないんじゃない」  手の隙間からこちらを険しい目で見てきた。そっちが聞いてきたくせに。 「あれ、二人とも早いね」  母さんが帰ってきた。 「離婚したいのはあの男がいるからか」  男?母さんも意外とやるなぁ。 「確かにそれもあるけど、一番は父さんが死んだからよ」 「お義父さんの事故は残念だったと思う。でも、それが離婚とどう関係する?第一、結婚してから一度もお義父さんと会ってないだろ」  声を荒立て父さんは母さんの方へ向き直った。 「あなたに言ってもわからないわ。私の気持ちは、あなたにはわからない」  母さんはとても冷たい目で父さんを見ている。こんな表情も出来たのか。  母さんはいつもニコニコし、怒ることもしない人だった。だからこの表情は初めて見るもので、ついまじまじと見てしまった。 「お前が何も言わなければ、僕は何もわからない。離婚したいなら、僕を納得させてみろ」 「詠一、部屋に行ってなさい」 「ここにいろ。詠一にだって関係のある話だ」 「親の恋愛話ほど聞くにたえないものはないわ」  確かにきつい。でも、このいつもと違う母さんをもう少し見ていたい気もする。 「離婚するとなれば、こいつの人生だって関わってくるんだぞ」 「そう、詠一を傷つけることになるわよ」 「お前のせいだろ。詠一だってもう子供じゃない」  母さんはため息をつき、俺の正面に座った。父さんは俺の隣に座る。 「まず何から話せばいいのかしらね」 「どうして離婚とお義父さんの死が関係する?」 「それは私たちの結婚にも関係してくるわ」
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