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リビングのドアを開けた。電気がついていないから誰もいないと思っていたが、いた。
父さんは額に手を当てながら椅子に座っていた。やつれた顔でこちらを見てくる。俺はちらりと父さんの方に視線を向けた後、部屋へ向かおうとした。
「詠一、ちょっとこっち来てくれ」
捕まった。めんどくさい。
俺はしぶしぶ父さんの向かいに座る。
「お前、母さんから離婚について何か聞いていたか?」
「別に、昨日の夜離婚しようと思うって聞かされただけ」
「お前はどう思うんだ」
父さんは俯いたまま、こちらを見ずに聞いてくる。よっぽど堪えているんだろうな。
「無理に一緒にいる必要はないんじゃない」
手の隙間からこちらを険しい目で見てきた。そっちが聞いてきたくせに。
「あれ、二人とも早いね」
母さんが帰ってきた。
「離婚したいのはあの男がいるからか」
男?母さんも意外とやるなぁ。
「確かにそれもあるけど、一番は父さんが死んだからよ」
「お義父さんの事故は残念だったと思う。でも、それが離婚とどう関係する?第一、結婚してから一度もお義父さんと会ってないだろ」
声を荒立て父さんは母さんの方へ向き直った。
「あなたに言ってもわからないわ。私の気持ちは、あなたにはわからない」
母さんはとても冷たい目で父さんを見ている。こんな表情も出来たのか。
母さんはいつもニコニコし、怒ることもしない人だった。だからこの表情は初めて見るもので、ついまじまじと見てしまった。
「お前が何も言わなければ、僕は何もわからない。離婚したいなら、僕を納得させてみろ」
「詠一、部屋に行ってなさい」
「ここにいろ。詠一にだって関係のある話だ」
「親の恋愛話ほど聞くにたえないものはないわ」
確かにきつい。でも、このいつもと違う母さんをもう少し見ていたい気もする。
「離婚するとなれば、こいつの人生だって関わってくるんだぞ」
「そう、詠一を傷つけることになるわよ」
「お前のせいだろ。詠一だってもう子供じゃない」
母さんはため息をつき、俺の正面に座った。父さんは俺の隣に座る。
「まず何から話せばいいのかしらね」
「どうして離婚とお義父さんの死が関係する?」
「それは私たちの結婚にも関係してくるわ」
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