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「こんにちは、鷺本さん。ああ、そんな硬くならずに、今日はお仕事の話じゃないんですよ」
「秋華、こちら香坂弥栄さん。うちの会社の大事な、取引相手先の社長さんだ。今日は、どんなご用件で?」
ここは私の家のはずだ。家の者が2人固まり、部外者が優位に立っているのはおかしくないか。
「それがね、おめでたい話なのよ。うちの息子がお宅の娘さんに惚れて、告白したのよ」
「告白、ですか?」
父は目を見開き私を見てくる。私はゆっくり弥栄さんの方に視線を戻した。
「そうよ!一目惚れしたんですって、若いっていいわねぇ。そこでね、秋華ちゃんにお願いがあるの。いい人がいないならうちの哲哉ちゃんの告白受けてくれないかしら?」
「…はい?」
哲哉ちゃん…今朝のバラの人ってことでいいんだよね?
「あら、そう!良かったーOKしてくれるのね!哲哉ちゃん、ああ見えて自分から告白するの初めてだからすごい緊張していたのよ。もし振られたら立ち直れないなんて言って。でも良かったは、秋華ちゃんがOKしてくれるなんて。じゃあ邪魔者は帰るわね。安心して、哲哉ちゃんにちゃんと伝えておくから」
弥栄さんはお付きの者と帰っていった。 あれは、良いという意味のはいだったのだろうか。私は聞き返したつもりだったのに。
ああ、これが俗にいう日本人が詐欺に合う「はい」か。
「秋華、俺のことは気にしなくていいから。もし変な男だったらすぐ別れなさい」
父さんは早口でそう伝えると外に出て弥栄さんを見送りに行った。
私は一人、残された玄関で靴を履いたまま膝を抱えて座った。
時間の感覚が全然ないけど、たぶん数分も経たないうちにドアが勢いよく開いた。
「秋華さん!結婚してくれるって本当ですか?いやー勇気を出して告白して良かったー」
「良かったわねー、哲哉ちゃん」
結婚?何の話だそれは。
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