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「…香坂さん?え、結婚ですか?ちょっと待ってください、秋華はまだ高校生で」
香坂親子の後ろから父さんは焦ったように出てきた。
「あら、大丈夫よ、さすがに卒業までは待つわ。あと4か月くらい、お付き合いしていればすぐよ」
「で、でも」
父さんは香坂親子と私を交互にチラチラ見てくる。
「ね、秋華ちゃん、 」
ゆっくり弥栄さんは手を伸ばし、私の両肩を掴んできた。なぜだろう、首を絞められる絵が浮かんだ。そして、弥栄さんは私の耳元で呪いの言葉をささやいた。
「秋華、いいのかお前?」
結婚を断れば、私だけでなく、父の会社の人にも迷惑になる。知らない人と結婚し、裕福な家庭で過ごすか、父親と不自由な生活を過ごすか。
…私に選択肢はないか。弥栄さんに言われた言葉だけが私の頭の中に残る。
…ここまで育てて貰った恩を返すね、父さん。
「…はい」
その瞬間何も聞こえなくなった。私の周りの人たちは動き、何か喋っているけれど、私の世界だけ動かなくなったらしい。
漫画で見ていた結婚とは違った。現実はこんな感じなのだろうか。
今はまだ好きとかいう感情はわからないけど、これから先、好きだって思うような人に出会って、お付き合いして、結婚するものだってなんとなく思ってた。
私は好きでもない、何も知らない男と結婚するらしい。決め手はただ一つ、彼の親が怖かったから。
「ああ、嫌だなあ」
小さく呟いたこの言葉はいつの間にか一人になっていた私以外には届かなかった。
目を瞑って深呼吸する。私は生まれ変わった。
きっと彼のことは好きではないし、好きにはならないと思うけど、今回の人生で私を好きになってくれる人は彼しかいないのだろう。独り身にならず、誰かが貰ってくれるなら、それは贅沢なことか。
…来世で頑張ろう。
「秋華、本当に良かったのか」
「うん」
嫌だよ。
「そうか、お前がいいならいいんだ。あそこの家はお金持ちだからな、しかも社長の息子ときた。将来は安泰だな」
「うん、そうだね」
気づいて。そんな幸せはいらない。
「母さんに報告ついでに線香あげてくる」
待って、いかないで。
「うん、そうだね」
私は今、ちゃんと笑えてる?父さんの目に私はどんな風に映っているの?
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