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「私は、あなたを愛していない。今までも、これから先もあなたを愛さない」
私は初めて夫に真正面から自分の意見を伝えた気がする。
「母さんが怖いから結婚?意味がわからない、嫌なら嫌と言えばいい」
私は何もわかっていない夫にまたため息をついた。
「だから言ったでしょ。あなたに私の気持ちはわからないと。家族を人質に取られたとき、つい自分の命を差し出してでも助けようとする感覚と言えばわかる?嫌だと言えば犯人は私も家族も助けてくれる?」
「それとこれとは話が違う」
「同じよ」
我ながら上手に例えられたと思うもの。
「よく好きでもないやつの子を産めたな」
夫は私に軽蔑の眼差しを向ける。私は詠一の方をチラリと見た。目が合った。だけどすぐに夫の方へ視線を戻す。
「あなたのお義母さんが望んだからね」
出来れば詠一に聞かせたくはなかった。夫は愛していなくても自分の子は愛しているつもりだから。
「やっぱりお前は変わっている。変だ。他人に言われたからってそう出来るものじゃない」
やっぱり理解してくれないじゃないか。夫の中で私の考えは変だと成ればもうそれで確定なのだ。
「そうね、私は変わっている。愛していない人と一緒にいるのはおかしいものね。だから、別れましょう」
「離婚してあの男と一緒になるつもりか。色々言っておいて結局あの男と一緒になりたいだけだろ」
この人はどこで暁介さんを知ったのだろう。
「約束はしていないわ。一応あなたと結婚している身分だから肉体関係だって持っていないし」
「お前は不倫をしたんだぞ。罪悪感はないのか」
「どうして罪悪感を持つの?愛する人と一緒になることの何が悪いの?愛していない人と一緒にいることの方が罪悪感を持つべきじゃない?」
「世間はそうは思わない。俺は不倫されて捨てられた男と見る。俺に恥をかかせるつもりか」
夫にとって大事なのは、いつだって自分が他からどう思われるか。
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