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「おはよう」 いつもと同じく会社に行く準備をしっかりしてからリビングに入った。 「はよ」 息子はこちらをちらりと見て言う。 おかしい。いつもある妻からの返事がない。 料理をしている妻に視線を向けた。鼻歌交じりに料理している。 「おはよう」 ゆっくり、はっきりと、妻の近くへ行き伝えた。 「ああ、おはようあなた。ねぇ、私たち別れましょう?」 料理から目を離さず妻は言った。 「は?」 「離婚、しましょうよ」 何を言われているかわからなかった。うきうきと、一緒に買い物行こうくらいのテンションで言うセリフではない何かが聞こえた気がする。 「はい、朝ご飯できたよー」 妻は火を止め皿に料理を盛り付けた。そして僕の横を通り過ぎ、朝ご飯を机で待つ息子のもとへと運んで行った。 「…待て、ちょっと待て!」 「なぁに?」 こんなときに思うことじゃないかもしれないが、振り返った妻の顔はここ最近で一番綺麗な顔だった。ドウシテソンナカオガデキル? 「お前は離婚したいのか?」 「ええ、もちろん」 妻はふふっと笑い出した。 何がおかしいのだろ。どうして妻は機嫌がいいのだろう。 色々聞きたいことはある、聞かなければいけないことはあるが上手く口が回らない。ただただキッチンで一人棒立ちになっていた。 「ってきます」 「いってらっしゃーい」  息子はご飯を少し食べ学校へ向かった。ドウシテアイツモヘイゼントシテイラレル? 「ほら、あなたも早く行かないと遅刻するわよ?」 「な、なぁ」  僕は椅子に座りながら妻を見た。とても冷めた目で俺を見ていた。目が合うとすぐに妻は笑った。さっきの綺麗な笑顔とは違い、冷たい笑顔だった。 「どうしたの」 『午前8:00をお伝えします』  固定電話の無機質な声が響いた。 「遅刻するわよ、早く食べなさい」 「飯はいらない。帰ってきたらちゃんと話そう。…いってくる」 「いってらっしゃい」  普段は忙しいからと見送りにも来ないはずの妻がわざわざ来て、90度のお辞儀までしていた。扉が閉まるまでの間、僕は妻を見ていた。お辞儀しきるまでの間、妻の顔をじっと見つめていた。  ああ、綺麗だな。そう思ってしまった。
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