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僕はただただ離婚届を見つめていた。
「僕は真面目に生きてきた。…なのに…どうして…僕がこんな、思いを」
息子が部屋から出て行った。部屋には床に座ったままの僕と、その僕に離婚届を差し出す妻。
「そうね、あなたはとても真面目だった。…真面目すぎてつまらなかった。他に女でも作ってくれればいいのにと思ったほどよ」
「僕は…何を間違った…」
「あなたの間違いは、間違いを犯す私を愛したことよ」
僕は叫んだ。どこにもぶつけられない感情を、思い切り空に向かって叫んだ。
妻はずっと離婚届を僕に差し出したままだ。いつの間にか詠一はいなくなっていた。
「私を嫌えばいい。そして、もう会わないのがお互いのためよ」
「どうして、お前も、詠一も、僕に逆らう」
肩で息をしながら妻を睨む。
「あなたはお母さんほど怖さも、人を従えるだけの力も持っていない」
僕は妻から離婚届けを奪い取りサインした。
「これで満足か」
「ええ、ありがとう」
二階から大きなカバンを持った詠一が下りてきた。
「お前も出ていくのか。まだ中学生だろ」
「どっちに引き取られても幸せにはなれない」
詠一は出て行った。妻も用意していたであろう少量の荷物を持っていた。
「残っているものは捨ててもらって構いません。…私はあなたに悪いことをしたとは思ってます。愛していないのに結婚してしまって。15年間お世話になりました。ありがとう、さようなら」
妻は深々とお辞儀をして出て行った。僕は、広い家に一人取り残された。
僕は母親に電話をかけた。
「もしもし、母さん?僕、離婚したよ」
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