息子4

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「詠一!」  母さんが息を切らしながら走ってきた。 「何?」 「確かに、最初はお義母さんに言われてあなたを産んだ。でも、愛していない人の間に出来た子であろうと、嫌いな女の血があなたに流れようと、あなたを嫌いにはならない。産んだことを後悔はしてない」  愛してない人の間に出来た子とか、嫌いな女の血が僕に流れてるとか、普通そういうの言わなくてもいいだろうに。…でも、そこが母さんらしい。下手にただ愛してるだの言われるよりは信用できる。 「で?」 「あなたが一人暮らしをするって言うなら止めない。でも、困ったときは遠慮しないで助けを求めて。 あなたには、私の血も流れてる。私の子でもあるんだから」  母さんは俺を抱きしめた。 「はいはい。助けを求めないように頑張るよ」  俺は母さんを背に歩き出した。 「元気でね」  母さんもね。ちゃんと好きな人と幸せになりなよ。  母さんの過去を聞いたとき、衝撃と同時に、自分も母さんを苦しめていた存在だったって思った。変わってるけど、家族思いで、苦しさも見せずに一人で背負っていた母さん。もし俺が母さんと同じ立場だったとき、果たして家族のために自分の人生を捨てられるだろうか。  人生までは捨てれないけど、俺も母さんのために出来ることをするよ。  俺は、母さんと父さんの連絡先を消した。  今までのことは悪夢と思って忘れてしまえばいい。父さんのことも、祖母ちゃんのことも…俺のことも。思い出す必要なんてない。新しい人生を歩めばいい。  ありがとう。産んだことを後悔してない。その言葉が聞けて良かった。それだけで俺は十分だよ。
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