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俺とアキは映画館で初めて出会った。小説家である俺の作品が映画化したんで見に行ったが、寝て起きてを繰り返していた。疲れがたまっていたっていうのもあるが、何より自分が何度も読み直し書き直した作品だからすぐに飽きた。
そんな状態で、隣に座っていたアキのポップコーンを俺が寝ぼけて食ったのが最初だった。
映画が終わり電気がついてから自分はポップコーンを買っていないことに気付いた。慌てて隣を見ると女は笑っていた。
「わ、悪ぃ、寝ぼけて食っちまった」
「ふふふっ、映画に感動した後にこんな笑いが待っているなんて、映画館もたまにはいいですね」
よく知らないやつに自分のもの食われて笑ってられるな。自分が食っておいてなんだが、こんな失礼なことを思っていた。
「それに私、ポップコーン嫌いなんでちょうど良かったです」
女は立ち上がりお辞儀をして帰ろうとした。
「ちょっと待て、じゃあなんでポップコーン買ったんだ?」
つい好奇心で聞いてしまった。
「レディースデイでついてきたんです」
「それで断れなかったと」
セールスに弱いタイプの断れない系女子か。
「きっとこのポップコーンはあなたに食べられる運命だったんですよ。だから、いつもは断るのに今日は貰ってしまったんです」
「運命?」
「人の力を超えたあらかじめ決まっているもののことですよ」
なんだこいつ、変なやつだけど、ちょっとおもしろいかも。小説のネタになりそうだ。
「嬢ちゃん、この後暇?」
「暇ですけど、嬢ちゃんって年でもないですよ」
「俺、真取っていうんだけどさ、ちょっと下の喫茶店でも行って話さない?」
この日の俺は年甲斐もなく、ナンパしていた。てか、人生初ナンパだと思う。
「…まとり?麻薬取締官の方ですか?」
女は眉をひそめ、鞄を自分の胸に抱きかかえる。
「いや、怪しいな!」
俺はついに声をあげて笑ってしまった。
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