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それに、ちゃんと盛岡行きの電車に乗ったはず。親友が――小夜子が待ってるから、行かなきゃいけないのに。
『仕事が終わったら駅まで迎えに行くから』
そうメッセージを送ってきてくれた小夜子。雪のように真っ白な肌に、切れ長の目をした彼女の笑顔が目に浮かぶ。
会えるのは久しぶりなのに。彼女が待っててくれるはずなのに。
混乱がおさまらないまま、あさひは呆然と木箱に切符を入れた。そんなあさひを、老婆はちょいちょいと手招く。
「おじょうさん、おひとつどうだい。このあたりじゃ有名なお守りだよ。このオババの手作りさ」
そう言ってオババがどこからか取り出したものをつられてのぞきこんで、あさひは「ひゃっ」と情けない悲鳴を上げた。
ミイラのようにカラカラになった、干物のような奇怪なもの。トゲだか爪だか鰭だかわからないものも見える。やたらに大きい眼窩がぽっかりと空いて、うらめしそうにあさひを見上げているように感じた。
それが、同じように干からびたオババの手のひらに乗せられていた。
「なっ、なんですか、これ」
その反応に満足そうにまた「ひひひっ」とオババは笑う。
「オコゼさ」
「オ、オコゼ?」
「大きい声じゃあ言えないがね」
オババは声をひそめる。
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