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そんなあさひの様子に気づいたらしい白夜が、小首を傾げた。
「うん? どうかした? そんな、酸欠の魚みたいにぱくぱくしちゃって」
「えっ、あっ、その……」
口ごもるあさひに、オババが北風のような声で笑う。
「さっきの放送を聞いとらんかったのかい? ここはまほろば温泉さ。ひとならざるものたちのための温泉郷だよ」
言われてみれば、アナウンスで流れた駅の名前がそんなだったような。
ん、ちょっと待って。
今、ひとならざるものの温泉って、聞こえた気がしたんだけど……
「そうだよ。ここは、人間じゃないモノたちを癒すための温泉郷なんだ」
まるであさひが考えていることを読んだように、白夜は白くたっぷりした毛並みの胸を、誇らしげにそらした。
「この地一帯をおさめる姫神は、そりゃあ慈悲深いお方でね。地上の温泉は人間たちが独占しちゃってるから、人間以外のモノの心と体を癒すための温泉を、与えてくださったんだ。それが、ここってわけ。ちなみに、霧みたいに見えるのは、普通の霧じゃないよ。温泉の湯気なんだ。ここは湯気の結界で守られた聖域なんだ」
そうしている間にも、無数の狐火がゆうらりゆらりと揺れながら、あさひたちの横を通り過ぎていく。
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