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温泉駅というだけあって――いや、温泉駅とはよくいったものだというべきか。
駅の待合室の向こうには、板張りの廊下が伸びており、そのまま温泉宿に通じているらしかった。駅直通の宿というわけだ。
さきほどわらわらと電車から降りて姿を消した狐火たちも、この宿のどこかでくつろいでいるらしい。
古びた木造の校舎を思わせる板壁に沿って、白く豊かな尻尾を揺らしながら白夜は進んでいく。おどおどしながら、あさひはその後に続いた。
「あ、あの……まだ行くんですか?」
「あとちょっとだよ」
「あたしたち、湯守……ってひとに、会いに行くんです、よね?」
「うん♪」
白夜の足取りには、相変わらず迷いがない。
廊下に響くのは、白夜の耳の鈴の澄んだチリンチリンという音と、あさひが足を踏み出すたびにギイギイと鳴る板の音だけだ。
もしここが本当に白夜やオババの言うように温泉宿なら、従業員やほかの温泉客の姿くらい見かけそうなものだが、さきほどからその手の者には全く出会っていない。
そのうち、無限に続くかに思われた板壁の一部に、ぽつんと白くて四角いものが見えてきた。
近づいて見ると、どうやら注意書きのようだ。
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