第一話 まほろばの温泉郷

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 温泉駅というだけあって――いや、温泉駅とはよくいったものだというべきか。  駅の待合室の向こうには、板張りの廊下が伸びており、そのまま温泉宿に通じているらしかった。駅直通の宿というわけだ。  さきほどわらわらと電車から降りて姿を消した狐火たちも、この宿のどこかでくつろいでいるらしい。  古びた木造の校舎を思わせる板壁に沿って、白く豊かな尻尾を揺らしながら白夜は進んでいく。おどおどしながら、あさひはその後に続いた。 「あ、あの……まだ行くんですか?」 「あとちょっとだよ」 「あたしたち、湯守……ってひとに、会いに行くんです、よね?」 「うん♪」  白夜の足取りには、相変わらず迷いがない。  廊下に響くのは、白夜の耳の鈴の澄んだチリンチリンという音と、あさひが足を踏み出すたびにギイギイと鳴る板の音だけだ。  もしここが本当に白夜やオババの言うように温泉宿なら、従業員やほかの温泉客の姿くらい見かけそうなものだが、さきほどからその手の者には全く出会っていない。  そのうち、無限に続くかに思われた板壁の一部に、ぽつんと白くて四角いものが見えてきた。 近づいて見ると、どうやら注意書きのようだ。     
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