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へへっ、と白夜は笑うと、Y字の廊下を右に向かって歩き出す。
ため息をひとつ落として、あさひはその後に続いた。
ここから先では殺生は厳禁です
どなたさまも こころおだやかに お過ごしください
「えっ」
またもや見えてきた注意書きに、あさひは思わず声を上げた。
「どうしたの?」
先ゆく白夜が足を止める。
「だ、だって。殺生って……」
「ああ、生き物を殺しちゃダメ、って意味だよ」
「いえ、意味は知ってるんですけど……」
あさひはぞっとした。
わざわざこんな注意書きをもうけるということは、少なくともそうしなければいけないだけの理由があるということだろう。
肩からずり落ちてきたバッグを掛け直し、周囲を見回す。
「どうしたのさ、急にきょろきょろして」
「ここって……殺生禁止にするような怖いこと、起きるんですか?」
真剣なあさひの表情を見て、白夜はプッと吹き出した。
「なあんだ。さっきからそれを心配してたのか」
「だ、だって何だか物騒じゃないですか。ふつうの温泉には、こんなのありませんよ」
「そりゃあ、ここはふつうの温泉じゃないからねえ」
けらけらと白夜は笑う。
もっともな話だが、あさひにとっては笑いごとじゃない。
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