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「ひゃっ」
自分でも聞いたことがないくらいに情けない声を出して飛び退く。
そこにいたのは、四、五歳くらいの男の子だった。
「えっ……?」
混乱したまま、自分で自分の体を抱きしめるあさひを、男の子は大きな黒い目でじっと見上げる。どう見ても、ふつうの人間の男の子のようだ。
「ぼ、ぼく……どうしたの? お姉さんに、なにか用?」
あさひがおそるおそる尋ねると、男の子の顔が、くしゃりとゆがむ。
その大きな目に、みるみる涙の粒が盛り上がり、あふれた。
「うわああああああん!」
廊下に響き渡る大音量に、おろおろとあさひは白夜の方をふりかえった。
当の白狐はあさひたちから少し離れた場所で、ゆったりと尻尾を揺らしている。
ふざけた口調とは裏腹に、どこか表情の読み取りにくい狐面は、それまで以上に何を考えているのかわからない。
「ちょ、ちょっとぼく、泣かないで。どうしたの?」
目線を合わせて屈みこんだあさひに、男の子は両手で涙をぬぐいながら答えた。
「ママと……パパがいないの」
「ぼく、迷子になったの?」
ひっくひっくとしゃくり上げながら、男の子は何度も頷く。
「ぼく、どこから来たの?」
「わかんない」
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